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東京高等裁判所 昭和31年(う)1265号 判決 1956年9月19日

控訴人 原審弁護人

被告人 足立寿一

弁護人 遠藤徳雄

検察官 長谷多郎

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人遠藤徳雄作成名義の控訴趣意書及び追加控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は、次のように判断する。

控訴趣意書第二点の(2) について、

所論は、原判決が罪となるべき事実の第一の(二)として判示した納税証明書の偽造は、川崎税務署長大蔵事務官星侑名義の冒用ではなく、又新しい右証明書を作成したものでもなく既に存在する同人名義の納税証明書を利用しこれを改ざんした程度に過ぎないものであるから、変造罪の成立することはあつても偽造罪を構成するものではないと主張するのである。ところで、原判決挙示の証拠によれば、原判示第一の(二)の犯罪事実を肯認することができる。すなわち、これによれば、被告人は既に川崎税務署から交付を受けて所持していた同署長大蔵事務官星侑名義の原判示福士宇一の昭和二十九年度分の原判示本税納付税額が金二万三千円であることの納税証明書を使用して原判示のように右福士宇一に関する部分をすべて書きかえ、有限会社中沢電機(代表取締役中沢渉)の昭和二十九年度の本税納付税額二十三万八百円である旨の右署長名義の納税証明書としたことが明らかである。そして文書の変造というのは、権限なしに真正な他人名義の文書に変更を加えることであるが、その文書の本質的な部分に変更を加えて別個のあらたな文書が作り出されるときは、最早や変造の域を脱し偽造と解さねばならないこと論を俟たないところである。本件においてなるほど、その納税証明書の作成名義は全く手を加えられない侭で川崎税務署長大蔵事務官星侑であるけれども、その証明すべき内容は前後全く異なつておりこの文書の持つ重要な部分である証明の対象が全く別人となつているのであるから、これは最早や別個のあらたな納税証明書の作出といわなければならない。すなわち本件所為は変造ではなく偽造であると認むべきものであつて、これと同趣旨の原判決の事実認定及び法律の適用は洵に正当である。

論旨は全く独自の見解を主張するものであつてもとより採用のかぎりでない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 大塚今比古 判事 渡辺辰吉 判事 江碕太郎)

遠藤弁護人の控訴趣意

第二(2)  又公訴第二事実は、要するに福士宇一の昭和二十九年度分所得税金二万三千円の納付済である納税証明書を、有限会社中沢電気が昭和二十九年度分の所得税として金二十三万八千円を納付したものである旨の納税証明書を慥えたもので、川崎税務署長大蔵事務官星侑の名義を冒用したものでなく、既に川崎税務署長大蔵事務官星侑の名義はあつたもので新たに作成したものでないことは事実で、本件は偽造でなく改竄程度である為変造罪であると解するのが正当であると解する。

されば、偽造と変造とは法定刑は同一であるとするも、実際の社会生活に於て即ち情状に於て異るものがあると思料する。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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